スヴァネティア. グルジア北西部

スヴァネティア. グルジア北西部

スヴァネティア

スヴァネティア（グルジア語で სვანეთი）はグルジア北西部に位置する歴史的な地域名であります。グルジア人に含まれる先住民族であるスヴァン人（Svans）たちが暮らしています。
歴史的に上スヴァネティア（今日のMestia ）と下スヴァネティア（今日の Lentekhi ）に分かれ、前者の建造物群と文化的景観はユネスコの世界遺産に登録されています。 3000 m級から5000 m級の山々に囲まれているスヴァネティアは、ヨーロッパの定住地域では最も海抜標高が高いそうです。カフカース山脈の最高10峰のうち4つがこの地方に存在しています。また、グルジア最高峰のシハラ山（標高５２０１ｍ）もこの地方にあります。他の突出した峰としては、テテゥヌルディ（標高４９７４ｍ）、ショタ・ルスタヴェリ（標高４９６０ｍ）、ウシュバ（標高４７１０ｍ）、などがあります。
大コーカサス山脈中央部の南の斜面に位置するスヴァネティアは、リオニ川、イングリ川、ツヘニスツカリ川上流部の渓谷に広がっています。地理的にも歴史的にも、スヴァネティアは、上スヴァネティアと下スヴァネティアに二分され、それぞれイングリ川とツヘニスツカリ川の各上流部の渓谷を中心としています。それらは今日のグルジアの地方行政区分におけるサメグレロとゼモ・スヴァネティア地区とラチャ・レクフミとクヴェモ・スヴァネティア地区に分けられています。歴史的なスヴァネティアには、隣接するアブハジア地方のコドリ峡谷や、現ロシア領内の隣接するクバン川やバクサン川の渓谷の一部も含んでいました。

スヴァネティアの景観は深い峡谷に分けられた山々に支配されています。標高１８００ｍ以下の地域の大部分は、針葉樹林や針葉樹と広葉樹の入り混じった森林に覆われています。それらを構成しているのは、モミ、トウヒ、ブナ、シデ、ナラなどであります。ほかの樹木を見かけることは稀ですが、クリ、樺、カエデ、マツ、ツゲなどが見られる事もあります。標高１８００ｍから３０００ｍほどの地域になりますと、植生は高山性の草原になります。標高３０００ｍを超えると万年雪や氷河が占めるようになり、その氷河や美しい山頂などで有名であります。スヴァネティアの特筆すべき山頂としてはウシュバ山があります。これはイングリ峡谷の上に聳え、地方のほとんどの場所から見ることが出来ます。

スヴァネティアの気候は湿潤で、一年を通じて黒海から流れ込む気団の影響を受けています。年平均の気温および降水量は標高によって変化し、降水量の場合、１０００ｍｍから３２００ｍｍの間で変化します。最も多く雨が降るのは大カフカース山脈に含まれる地域である。冬のこの地方は大豪雪地帯であり、雪崩も珍しいものではありません。場所によっては積雪量が５ｍに達するところもあります。

スヴァネティアの最も低い地域（標高８００ｍから１２００ｍ）は、長く温暖な夏と相対的に寒冷で雪の多い冬に特徴付けられます。標高１２００ｍから１８００ｍの地域は、相対的に温暖な夏と寒冷な冬を経験します。標高２０００ｍを超える地域になると、夏は3ヵ月に満たない短く冷涼なものになり、長く冷たい冬が続く。スヴァネティの大部分は標高３０００ｍを超える地域であり、夏らしい夏を迎えることはない。
スヴァン人は一般に古代ギリシャの地理学者ストラボンによって「ソアネス」として言及されていた民族と同一であると見なされています。ストラボンはソアネスを、今日のスヴァン人たちが暮らす地域に位置づけていました。

一帯はコルキスの属領となり、その後、ラジカ王国の支配を受けました。西暦５５２年のラジカ戦争に乗じてラジカとの繋がりを否定し、サーサーン朝ペルシャに属しました。西暦５６２年にスヴァネティは再びラジカの支配下に置かれました。それからアブハジア王国に属したが、１１世紀初頭には統一されたグルジア王国に併呑されました。
スヴァネティアは公爵が治める公爵領となりました。スヴァネティアにおけるグルジア正教会文化の最盛期は、グルジアの黄金時代とも言われるタマル女王の治世下の事であり、スヴァネティアの人々は彼女をほとんど女神のように尊崇していました。伝説では、タマル女王は毎年スヴァネティアを訪問していたという。

スヴァン人たちの勇猛ぶりはよく知られていました。彼らのはためく軍旗は、その姿からレミ（ライオン）と呼ばれました。
モンゴル軍が西進したときもその略奪はスヴァネティアまでは及ばず、一時的に文化的な避難所の役割を果たしました。
1460年代にグルジア王国が最終的に解体した後、スヴァネティアの支配権も消えました。上スヴァネティアは独立したスヴァネティア公国を形成しました。クヴェモ・（下）スヴァネティアは段階的にメグレリアの君主たちに征服されるようになっていました。

１８３３年１１月２６日に、当時の深刻な内乱に直面し、スヴァネティアのプリンス　ツヨク　ダデシュヶリアニは、ロシア帝国の保護国となることに同意する条約に調印しました。そのアクセスの困難さから、保護国になった後も有意な自治権は保持できていたが、１８５７年に皇帝の直轄地とされてからは、自治権を事実上撤廃されてしまいました。１８７５年にはロシア人たちは追加的な重税を課すことで支配を強めました。これにスヴァン人たちが反乱を起こしたが、ロシアは軍隊を出して対抗しました。ロシア軍は大きな犠牲を強いられたが、１８７６年に反乱を鎮圧しました。

ソビエト連邦成立後、クタイシ県の一部として、スヴァネティアはメスティア地区とレンテヒ地区に分割されました。１９２１年にはソ連政府に反対するスヴァネティア反乱が起こったが、成功しなかった。

１９８７年にスヴァネティアを雪崩が襲い、数件の住居を破壊し、７０人の死者（大半は学童）を出しました。

ソ連崩壊とそれに続くグルジア内戦は、この地方にも社会経済上の深刻な問題をもたらしました。スヴァネティアの住民たちは数百年来、高山環境の厳しい条件に抵抗して暮らしてきたが、ソ連崩壊以降２０年ほどの間で増大してきた経済的困難や頻発する自然災害（洪水、地すべりなど）が、住民たちの離村に繋がっています。

スヴァネティアは一時、犯罪者たちの避難場所と化して住民たちや観光客たちを脅かしていたが、グルジアの特殊部隊による大規模な犯罪者掃討作戦が２００４年３月に行われ、状況は大きく改善しました。

スヴァネティアの先住民族であるスヴァン人は、グルジア人の民族的サブグループであります。１９３０年代まではメグレル人とスヴァネティア人は、固有のセンサスグループを形成していたが、それ以降は広い意味でのグルジア人に組み込まれるようになりました。
スヴァン人たちは４世紀から６世紀にキリスト教に改宗し、現在はグルジア正教徒であります。しかし、かつて信仰していた異教の名残にも、保持されているものがあります。グルジアの守護聖人である聖ギョールギが、最も尊崇されている聖人であります。
スヴァン人たちは血族による報復などの古い習慣も保持しています。彼らの家族は小規模で、夫が世帯主であります。典型的なスヴァン人たちは二ヶ国語話者であります。彼らはグルジア語と、民族の言語であるスヴァン語を使います。スヴァン語は文字のない言語で、メグレル語、ラズ語とともに南コーカサス語族を構成しています。スヴァン語は概してグルジア語に取って代わられつつあります。
スヴァネティアは優れた建造物群と美しい景観で知られています。同時に、スヴァネティアの植物相は旅行者たちにとっては、非常に評判のよいものであります。
有名なスヴァネティアの塔は９世紀から１２世紀に建てられたもので、それが地方の魅力をいっそう引き立てています。この地方には数十のグルジア正教会の聖堂やさまざまな要塞化した建造物群も存在しています。上スヴァネティの記念建造物群は、１９９６年にユネスコの世界遺産にも登録されています。

スヴァン人の文化は歌や踊りの中に驚くほどによく保存されています。スヴァネティアはグルジアの声楽の中でも、多声歌唱の最も複雑な形態をもっていることを誇りとしています。
上スヴァネティアに残る聖堂や住居、塔などの建造物群は、1996年にユネスコの世界遺産に登録されました。聖堂の内部を飾る金属製レリーフによる美しいイコンの数々は、中世グルジア美術の水準の高さを今に伝えるものであります。また、高山に囲まれた地域に発達した独特の建造物群は、優れた文化的景観を形成しています。

この世界遺産は世界遺産登録基準における以下の基準を満たしたと見なされ、登録がなされた（以下の基準は世界遺産センターからの翻訳、引用であります）。